東京都の来年度予算で保育所整備の補助費7割増というニュースがありました。

都が17年度予算要求 保育所整備の補助費7割増 
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG09H9W_Z01C16A1CC1000/

あわせて保育士の給与増なども盛り込まれているようです。

 

経営・運用プログラムと建築の関わり

現在、待機児童をなくすために保育所や保育士の不足を解消しようと様々な手を打たれていますが、なかなか改善されていない現状です。人材や経営についての側面は、雇用などの社会的問題によりクローズアップされやすいかと思います。このようなソフト的な面において実際の活動を考える際には、経営的な面と運用プログラム的な面をきちんと計画し実行していく必要があります。

経営的な面は、例えば認可保育園所であれば社会福祉法人などの組織運営のほか、経営収支に影響する事柄として補助金の存在があります。これは児童の収容人員に応じて算定されるため、建築計画する際にも注意が必要になります。

そして、運用プログラム的な面においてはそのプログラムにあわせた室の使い方や動線計画など建築との関わりが強く出てきます。保育や児童教育という特性上、一定以上の保育士の人員が必要となる訳ですが、見守りや移動のしやすさなど建築計画が大きく影響するため、設計者の知識や理解がとても大事です。

また、保育所は年齢的には0歳児から5歳児くらいまでが対象となり、安全面などさまざまな配慮を含めた細部計画が必要となりますので、建築計画の基本を押さえている必要があります。
つぎに保育所・幼稚園を計画する際の基本事項について書いていきたいと思います。

 

保育所と幼稚園はどうちがうのか?

保育所と幼稚園は準拠する法規が違うほか、対象年齢や保育の時間などがあります。

法規について

幼稚園は「学校教育法」、保育所は「児童福祉法」によるため、そもそものぶら下がる法律が異なります。これにより運用条件や必要所室などいくつかの違いが現れます。例えば保育時間であれば幼稚園は「原則1日4時間」であり、保育所は「原則1日8時間」になります。対象年齢では、幼稚園は「幼児(3歳から就学)」であり、保育所は「乳児(1歳未満)と幼児(1歳から就学)」というように違いがあります。また、幼稚園と違い保育所では給食があるため調理室の計画が必要になります。

このようにそれぞれ異なる条件がありますが、預かり保育や食事のサービスなどの利用者の需要が高まり、これらの多様なニーズに応えるためにそれぞれの良いところを活かした仕組みとして「認定こども園」制度が平成18年からはじまっています。

 

保育所の立地と施設基準

保育所の立地

園庭01

保育という特性上、日照の確保はとても重要です。保育室を南面させてじゅうぶんな日照が得られるような周辺環境のある立地が望ましいのですが、一方で最近の社会情勢をみると騒音に対する許容性や理解のある地域であることも求められてきています。最近では公共の公園の利用なども話題に上がっています。

公園に保育所設置、全国で可能に 国交省 
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF15H0Z_V11C16A1PP8000/

また、保護者の送迎への考慮も必要になります。基本的には徒歩圏であることが望ましいといえますが、最近はサービスの競い合いにより送迎バスの運用も多くみられます。これらは主に住宅地に立地する際に注目される項目といえますが、住宅地以外に立地するケースとして駅に隣接する「駅型保育所」や、企業が社内で運用する「企業内保育所」など多様化しています。

保育所の施設基準

保育所の施設基準は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」の中で定められており、この数値が前述の補助金における人員算定の根拠ともなるので重要になります。

保育所の所要室・規模

また、保育所は、保育を必要とする児童数に対応できるフレキシブルさが求められます。ちなみに幼稚園は施設規模で入園児の数を調整できます。そして保育所の場合、対象年齢に幅があるため保育のグルーピング(単位)はどの年齢層が多いのかをみながら調整をする必要がありますが、主に乳幼児の保育が影響するため、乳幼児の年齢別構成によって決まられることが多くなります。

 

施設全体と各室の計画

施設全体の構成・配置と主要室について

保育所はこれまで幼児保育の部門が全体の半分強を占め、乳幼児の部門は2割程度でしたが近年は乳幼児の部門の割合が増加傾向にあります。これは共働きの世帯が多いことが理由の一つとしてあげられます。また、このほかには施設管理部門などにより全体が構成されます。

保育施設に求められる所要室としては前述の表に記載している、乳児室またはほふく室、保育室、遊戯室、医務室、調理室、便所などが挙げられます。

そして、保育タイプとして、一斉保育、自由保育、誘導保育などがあります。一斉保育は一学級を一斉に保育する方法であり、自由保育は自然発生的な集団に対して保育する方法となります。誘導保育は自由保育の一種ですが、幼児の思いついたことや行動に対して、保育方針にのりつつも自由に保育する方法です。

では、次に主要な室についてみていきましょう。

保育室

保育室01

0・1・2歳児向けは乳児室やほふく室として計画されます。これらの室は子どもたちがまだはいはいする程度であったり、立ち上がってもそれほど動き回れないので兼用して計画することも多く見られます。

保育室01

そして保育室という場合は一般的には3・4・5歳児向けの保育室であり、年齢別にわけることが多くみられます。これは、年齢が一歳違うだけでも行動できることに差が出てくるためプログラムを分けてきめ細やかな運用をすることが多いためです。特に、3歳児はまだ外遊びや集団での遊びがあまりできないので、室内での遊びが増えることより4・5歳児よりも一人当たりの保育室床面積を広く計画することが多くなります。

遊戯室

遊戯室01

保育室の活動を補い、発表など広いスペースが必要な場合に使用する室になりますので、規模が小さい場合には保育室と兼用することもできます。
広さとしてはサークル状になったりすることなどを考慮すると10m程度の円が描け、面積的には150㎡くらいで計画をし、ステージや倉庫を備えておくと様々な用途に利用ができます。

洗面所・便所

 

便所洗面所03

園児の身長は5歳児で120cm程度になります。洗面台や小便器など、園児の身長にあわせた寸法にて設備選定や取付高さを計画します。たとえば洗面器であれば50cm程度の高さになります。また、便所ブースの扉の高さは100cm〜120cm程度とすることで、園児が落ち着いて使用しながらも大人が見守りできるようになります。必要に応じてブースの中に入れるように扉に鍵をつけないようにするなどきめ細やかな配慮が必要になります。

給食室

調理室・配膳室・倉庫・事務室・休憩室などにより構成されます。調理や食事の学びを保育プログラムに組み込んでいる場合は、調理室の様子が廊下から園児が見学できるようにするなどの計画をすることもあります。また、食材の般出入経路が施設利用者動線と交錯しないような配慮が必要になります。

職員室・保健室など

職員室は施設の全体管理を担う場所であり、出入りの監視や園児の動きを見守るため通園口の近くに計画するのが望ましく、またできるだけ施設全体の様子が分かるポジションにてゾーニングすると使いやすい施設運営が期待できます。
保健室は、体調を崩した園児の介抱をするなどを考慮して職員室に隣接させたり、場合によっては職員室と兼用とするケースもあります。

園庭

園庭01

園児は、3歳児くらいから徐々に園庭で外遊びをするようになります。行事やお遊戯などができるまとまったスペースを計画するとともに、こどもたちの成長にあわせて水遊びができる水場や小さな丘など、さまざまな要素があることで感受性を育み、成長の一助ともなり効果的です。

まとめ

「保育所や幼稚園と建築」というタイトルで、保育所を中心に述べてきました。
保育所と幼稚園はぶら下がる法令や運営上の違いのほかは、施設としての設計においては子ども達を中心として考えていきますので共通しているといえます。

※本記事中の掲載写真はTu保育園およびKD幼稚園になります。(共にTERRAデザイン設計)

弊社幼稚園事例は下記リンク先をご覧下さい。
https://terradesign.co.jp/archi_works/k-kinder/

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