つなぐ森淵野辺

 

はじめに

 

1月28日のワールドビジネスサテライトでも紹介されましたが、住宅生産振興財団で計画している住宅地開発に「つなぐ森淵野辺プロジェクト」があります。

日本経済新聞2019年1月16日記事
雑木林と一体の分譲住宅 相模原市で 住宅生産振興財団

弊社では、このプロジェクトの緑地協定のセットアップや手続きと住民管理組合組織の立ち上げ支援のお手伝いをさせてもらっています。
自分自身の住宅地開発については関わり具合は様々ですが、いつの間にやら20年以上見てきているためその変遷をつかず離れず観察していく観測者みたいなかんじでした。

1990年代あたりを思い返すと一般的な住宅地は、とても単純に区画が並んでいて互いの境界や道路とは塀やフェンスでしっかり囲われていました。とりわけこの頃は外構計画が貧弱で、メンテナンスが面倒という事で植栽は少なかったり土の部分を嫌って土間打にしたりという傾向が強かった頃です。敷地の広さも充分でない中で、駐車場を2台とりたいという需要が増えてきた頃であり、またローコスト住宅がやたらと多かった時期でした。

2000年を過ぎてくると少しずつ住宅地に求められるクォリティーが高まってきたように思います。目に見える変化としてはオープン外構の住宅地が増えてきたというところかと思います。
住宅取得層の世代が変わってきて、塀やフェンスがないことへの抵抗がなくなってきたことや、建物自体の防犯性能が高まってきたことなど住み手の意識がわかったことと、販売時にオープン外構の方がビジュアルが良いということもあったのかと思います。

そして、この数年徐々に目につくようになってきているのが、住宅地の管理組織の登場です。

管理組合も初めは住宅地開発の際に防犯カメラなどの共有物がセットされたところからおそらく登場してきているのかと思われますが、徐々に住宅地の住環境を維持するための目的でもセットアップされるようになってきました。

その中でも、植栽については相手が植物という生き物なだけにきちんと維持管理をしていかなければならないため、みんなで管理しようという考えがついてくるようになってきたかと思います。

また、マンションで生まれ育っている世代になってきていることから、管理組合に対しての違和感のない購入者という属性もあるのかもしれません。この辺りはどこかで調べてみたいところです。

 

つなぐ森淵野辺のほかとは違う個性

このように最近の各地で計画されている(された)住宅地は、オープン外構が多くなり、また他との差別化を図るためそれぞれにコンセプトがあり個性をもたせています。(そうではない価格勝負のみのところもありますが・・・)

では、つなぐ森淵野辺のコンセプトはというと次のように公式サイトで表現されています。

『緑に包まれた戸建て住宅地という、価値。』

街の真ん中に大きな「森」を作り、まわりに家を建てることで、たっぷりの緑に包まれた暮らしが実現するとともに、街としてのセキュリティやコミュニティづくりにも役立つ「サトヤマ」発想。新しいコンセプトで生まれる「つなぐ森プロジェクト」は、家族に、住まいに、環境に新しい価値を提案します。

オープン外構というだけでなく、緑がとてもたくさんありさらに暮らしている人たちが集まれる森にコニュニティを期待しています。豊かな環境の中に共同体のコロニーを形成しようとするダイナミックなコンセプトと言えます。

 

つなぐ森淵野辺と相模原

ところで、相模原というエリアはこの「つなぐ森淵野辺」のコンセプトとの相性の良さがあります。日経新聞記事やワールドビジネスサテライトでもキーワードとして登場した「雑木林」がその接点になります。

相模原は割と最近まで未開拓のエリアで、江戸時代までは荒地で生産性のない場所でした。
広大な雑木林があり薪拾いなどされてはいましたが、新田開墾などの許可も降りないような土地でした。とりわけ今の中央区を中心としたエリアは相模原の三段段丘の上段でしたので、固い岩盤から構成されており水の流れがほとんどありませんでした。中段下段と下がるにつれて東側には境川、西側には相模川という地勢でしたので、過去より川筋に集落ができてきたそんな場所になります。

いまでもこの雑木林感が残っているところが、「こもれびの森」などで残っています。

そういう意味では雑木林を抱くこの住宅地は、相模原の土地性というかバナキュラー的な相性があるといえます。誰も言わないのでボクが触れておきます(笑

ちなみに相模原が本気で開拓されるようになったのは、旧陸軍士官学校など軍事利用で相模原の大地を使いだしてからということになります。この辺りはまた別の機会に記事化したいと思います。

 

定着してきたオープン外構

前述のように、一昔前(90年代頃まで)の住宅地は塀やフェンスはスタンダードでした。そして、徐々にオープン外構が定着してきましたが、これにより既存住宅地と新しい住宅地の見た目には明らかな印象の違いが出るようになりました。

同じ敷地の大きさでも、塀やフェンスがない場合は視覚的に広がりを感じますので空間が豊かな印象になります。そして、植栽の緑量が違いますのでやはり好感度がぐっとあがります。

植栽についてはほかにも「空気質の清浄さ」「クールマイナス1℃」「日射遮蔽と取得」「火災時における延焼防止効果」「騒音に対する低減効果」などさまざまな効用がありますが、この辺りは改めて記事化したいと思います。

 

景観資源のたいせつさ

前述のように、すんでいる住宅地が良いと感じるときの要素のひとつに見た目の雰囲気があります。これがいわゆる景観です。

良好な景観はいろいろな良さがあります。前述のような物理的な視覚効果があるだけでなく、そこで暮らす人の心に植え付けられていくものになります。いわゆる「故郷の景色」です。心に残るこの故郷の景色が形成されるとこれを大切に維持していきたいと思うようになります。ですので綺麗にしておきたいという気持ちになります。

この景色はひとつの敷地で成立するものではありません。ですから、皆が大切に感じればみんなで守ろうよという自然のアクションが生まれてきます。そして、お掃除をしてみたり選定をしてみたり、集まった後にはみんなでパーティーなどしてみたりということもあるでしょう。

このような時間を過ごした子供達は、自分もまたここで暮らし子供を育てたいと思うようにもなるのかと思います。

景観はそれほどに力のある大切な要素といえます。

 

良好な景観を守るルールの必要性

このような良好な景観を守るためには、なにがその景観を作っているのかその「要素」に注目してその要素の色や形などを崩さないようにする必要があります。

建物の形や色、門柱の形、植栽の種類や数・位置など、その景観を構成する要素が何かをしっかり把握することで景観デザインができます。しかし、初めは良くてもその状態を維持できなければ景観デザインは崩れてしまいます。そこで、その景観を構成する要素を崩さないようなルールを明示することで良好な景観を守ることができます。

 

法律で決めることの出来るルール

時には景観を維持するために、現在用意されている法制度を利用することがあります。
景観法にある景観協定、都市緑地法にある緑地協定、建築基準法にある建築協定がこれまでよく利用されている制度になります。

これらを上手に活用運用することにより景観維持をする制御力をつけていくことができますが、景観要素をみんなで守るしくみとしてはこれだけでは不足することもあります。もしくは、経年変化に対応するために規定を変えようとするときの変更規定が厳しくてハンドリングが悪くなることもあります。

そこで、マンションでは区分所有法があり管理組合により運用されていますが、これを住宅地においても管理組合を設立し弾力的な運用をする方法があります。管理組合は全員加入とできるので関係者全員で運用することができるほか、規約もフレキシブルに設定運用できます。(自治会は任意加入なので関係者なのに未加入者が発生するリスクがあります。)

「つなぐ森淵野辺」では、これらの複合によるセットアップをしています。
法的な制度は緑地協定をセットして最低限の緑量確保を実現しつつ、管理組合にてこまかな景観デザインの規定と運用を組み込んでいます。

 

居心地の良さとコミュニティ

居心地が良い住宅地は景観が良いだけでなく、ご近所におけるひとのつながりでおつきあいしやすい環境が大切になります。ひとが集まる時には自然発生的にコミュニケーションがある程度生まれてきますが、そこには潜在的に程度差があります。好みや、価値観などの違いが時に表に出てくるわけです。

これは自分の馴染みの良い暮らしをどこに求めていくかという嗜好でも現れます。そういう点からすると、例えばつなぐ森淵野辺であれば雑木林のような環境が居心地良く感じるという方が集まりやすいともいえます。そういう意味では、コンセプトがはっきりしているほどに前述のような「故郷の景色」のイメージが近い人たちが自然と集まると考えられます。

 

植栽管理の難しさ

緑があるのはいいよね。でも育てるのがたいへんで・・・。こういう声が多くありました、というか今でもあります。植栽はざっくりいうと小さな緑は水やりが多めで、大きくなるほど放置感が出てきます。パンジーには水やりしても4、5mのクヌギには頻繁に水やりはしないよねというかんじです。

ですので地被類、低木、中木、高木、生垣などをメンテナンスを意識してバランスよく計画してあげることがコツといえます。また、年間通じて住宅地全体の植栽管理を専門業者と委託契約しておくこともできれば維持管理が楽になります。

 

みんなでやれば怖くない

このように、みんなでちょっとずつお金を出せば一人でやるより低コストで高水準の維持管理ができるので、これを管理組合で扱えば良いねということになります。

昔は地域で助け合うシステムがありました。例えば、茅葺き屋根の葺き替え時期の家が出てくると地域のみんなで葺き替えをしていました。地域でお金ではなく労務をみんなで出し合う社会システムができていました。当然、その葺き替え技術も地域の景観を守る基本的な目標空間像(景観デザイン)もこの社会の中で継承されてきていました。

現代においては、建物は個人所有で技術は専門業者となってしまい、お金を個人が出して地域の景観に影響を及ぼす修繕をし、その修繕が周りにどのように影響するのかの意識がすっかり希薄になっています。

このように、景観など良好な環境を個人で維持するのは負担が大きいだけでなく、地域景観の維持が難しい社会の中で私たちは暮らしています。

しかし、ルール(景観デザイン)をセットし、管理組合などの組織をセットしお金も労力もちょっとずつ出し合うことで魅力的な環境が維持できて居心地が良くなります。

みんなでやれば怖くない!

 

専門家を住宅地へ

ということで、みんなでやれば怖くないわけですが、技術的な内容や管理組合の立ち上げについては前述のように立ち上げ時期の数年は少なくともこのような専門分野のパートナーについてもらうことでランディングしやすくなります。
これにより景観要素がなにかが明確になり、維持する方法手段もアドバイスをもらいながら習得していくことができます。

ですので、継続的に専門分野の支援を受けるためには業務報酬が出せるようなビジネスモデルが必要になります。
最近の新しい住宅地開発では、開発事業者側でまとめてセットするケースが徐々に増えてきています。「つなぐ森淵野辺」も専門分野のパートナーが立ち上げ時期に支援するプログラムが組まれています。

一方、既存の住宅地でセットしたいという場合は、その住宅地のコンディションやどのような目標空間像(景観デザイン)にしたいのかから初めることにもなりますので、ビジネスモデルは個別に異なってくることになります。

 

さいごに

このように最近の住宅地計画は、本質的な住環境を追いかけだしていると思います。それほどに、住宅地ビジネスが激しくなってきていて他との差別化が必要という供給側の意識もあるかと思いますが、良い環境を目指した競争であればそこで暮らすひとたちからすると良い意味でどんどんやってねとなります。

弊社も「居心地の良い空間や場所」を求めて活動をしていますので、作り手と住まい手が共に良い暮らしの環境を創り育てられるようにしたいと思います。

 

《参考リンク》
つなぐ森淵野辺公式サイト
サトヤマヴィレッジ公式サイト

 


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大型団地 福祉拠点に 住宅10年計画で国交省 高齢化、地域と連携 

国交省が向こう10年間の住宅政策の方向性を示す「住生活基本計画」の原案が18日、明らかになった。独立行政法人の都市再生機構(UR)が全国に抱える大型団地のうち150箇所程度に介護サービス施設などを誘致し、地域の医療福祉拠点に転用するのが柱だ。不動産市場活性化に向け、中古住宅の流通規模を2025年に8兆円(13年は4兆円)へ倍増する目標も掲げる。(日本経済新聞2016.1.19)

国が重い腰をついにあげたか!となるような記事がありました。空き家対策として本来とは別の用途での使用(用途外利用、転用)を政策面から見直す方針を出したものだと思われます。

 団地に限ったことではありませんが、高齢化は様々な問題を引き起こします。ここでは団地で起きうる問題を例に挙げますが、例えば、低層でエレベーターがない団地であったら、4,5階まで階段なんてのはもちろんのこと、孤独死などといったことも十分あり得ます。

団地内の人口減少は、やはり全国的に見ても問題視されていると思われます。それに対する政策として今回のこの計画ですが、団地はゆとりのある広々とした土地を持っているので、高齢者に向けては良い環境がそろっています。〈高齢者だけでなく、住民、市民みんなに対しても良い環境だと思っています。)

ただ、福祉と一概にいってもそれ自体に解決されていない問題があるように感じました。福祉労働者の激務や低賃金がよくニュースで取り上げられているからです。場所を確保し、地域の拠点とすることは高齢化課題の第一歩となりますが、やはりソフト面での整備も大切ではないでしょうか。

 

「 不動産活性事業で中古住宅市場を活性化する」

マンション立替の法的手続きで代表的なのが「区分所有法」で、実際に建て替えるには区分所有者(住民)の5分の4が必要となります。今回の「都市再生就く別措置法改正案」においては、これを見直し、合意形成条件を3分の2に緩和する方針も出されるということでした。マンション自体の耐久年数は30~50年といわれていますが、実際に建て替えを行うのはなかなか難しいこととされています。そのひとつの大きな要因がこの区分所有法です。今後、いかに新築住宅事業を減らし、中古住宅の市場を活性化するのかというのが今後重要となってくるでしょう。それに対するソフト面の整備がなされることはストック型社会に近づく第一歩ではないでしょうか。

投稿:インターン田中怜(横浜市立大学大学院)